施行日:2023年(令和5年)4月1日
窓がない居室は、建築基準法の規制が厳しくなります。なぜなら、窓がない居室は避難上不利だと考えられているからです。しかし、法改正により、それ相応の区画や設備等を設けることで、窓がない居室であっても建築基準法の規制が緩和されます。
簡単に緩和の内容をまとめると…
30→40m又は50mになる
所定の条件を満たせば、無窓居室の歩行距離の制限が、所定の条件は複雑なので少し使いにくいかも…
ただし、緩和が有効に使えるケースもある!
それでも、そこで、緩和の条件に加え、どんなケースなら適用する価値があるのか解説していきます(sozooro)
無窓居室の基本的な内容については以下の記事を確認してください。
書いている人 |
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法文で改正内容を確認する
改正前 |
令120条1項 建築物の避難階以外の階(地下街におけるものを除く。次条第1項において同じ。)においては、避難階又は地上に通ずる直通階段(傾斜路を含む。以下同じ。)を居室の各部分から
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改正後 |
令120条1項 建築物の避難階以外の階(地下街におけるものを除く。次条第1項において同じ。)においては、避難階又は地上に通ずる直通階段(傾斜路を含む。以下同じ。)を次の表の上欄に掲げる居室の種類の区分に応じ当該各居室からその一に至る歩行距離が同表の中欄又は下欄に掲げる場合の区分に応じそれぞれ同表の中欄又は下欄に掲げる数値以下となるように設けなければならない。
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無窓居室を計画した場合、居室の各部分から階段までの歩行距離は無条件で30mでした。
(引用:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001595195.pdf)
平面的に大きな建築物ですと、どうしても窓がない居室の計画が出てきてしまいます。だからこそ、無窓距離の歩行距離が30mになるということは致命傷になります。
しかし…
法改正により、『所定の条件』を満たすことで歩行距離は
無窓居室であっても無条件30mになりません。
(計画によって、歩行距離は40m又は50mになります。)
じゃあ、歩行距離を30mじゃなくす為の条件って何?
正直に言うと、結構条件が難しいし、厳しいです!
告示の本文を確認したい場合、以下のボタンを押してください。
建築基準法施行令(以下「令」という。)第120条第1項の表の(一)の項に規定する避難上支障がない居室の基準は、次に掲げるものとする。
一 次のイ又はロのいずれかに該当すること。
イ 床面積が30㎡以内の居室(病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。)又は児童福祉施設等(令第115条の3第一号に規定する児童福祉施設等をいい、通所のみにより利用されるものを除く。)の用に供するもの及び地階に存するものを除く。以下同じ。)であること。
ロ 居室及び当該居室から地上に通ずる廊下等(廊下その他の避難の用に供する建築物の部分をいう。以下同じ。)(採光上有効に直接外気に開放された部分を除く。)が、令第126条の5に規定する構造の非常用の照明装置を設けたものであること。
二 次のイ又はロのいずれかに該当すること。
イ 居室から令第120条の規定による直通階段(以下単に「直通階段」という。)に通ずる廊下等が、不燃材料で造り、又は覆われた壁又は戸(ふすま、障子その他これらに類するものを 除く。以下同じ。)で令第112条第19項第二号に規定する構造であるもので区画されたものであること。
ロ 居室から直通階段に通ずる廊下等が、スプリンクラー設備(水源として、水道の用に供する水管を当該スプリンクラー設備に連結したものを除く。)、水噴霧消火設備、泡消火設備その他これらに類するもので自動式のもの(以下「スプリンクラー設備等」という。)を設けた室 以外の室(令第128条の6第2項に規定する火災の発生のおそれの少ない室(以下単に「火災の発生のおそれの少ない室」という。)を除く。)に面しないものであり、かつ、火災の発生のおそれの少ない室に該当する場合を除き、スプリンクラー設備等を設けたものであること
三 直通階段が次のイ又はロのいずれかに該当すること。
イ 直通階段の階段室が、その他の部分と準耐火構造の床若しくは壁又は建築基準法第2条第九号の二ロに規定する防火設備で令第112条第19項第二号に規定する構造であるもので区画されたものであること。
ロ 直通階段が屋外に設けられ、かつ、屋内から当該直通階段に通ずる出入口にイに規定する防火設備を設けたものであること。
四 居室から直通階段に通ずる廊下等が、火災の発生のおそれの少ない室に該当すること。ただし、不燃材料で造り、又は覆われた壁又は戸で令第112条第19項第二号に規定する構造であるもので区画された居室に該当する場合において、次のイからハまでに定めるところにより、当該居室で火災が発生した場合においても当該居室からの避難が安全に行われることを火災により生じた煙又はガスの高さに基づき検証する方法により確かめられたときは、この限りでない。
イ 当該居室に存する者(当該居室を通らなければ避難することができない者を含む。)の全て が当該居室において火災が発生してから当該居室からの避難を終了するまでの時間を、令和3年国土交通省告示第475号第一号イ及びロに掲げる式に基づき計算した時間を合計することにより計算すること。
ロ イの規定によって計算した時間が経過したときにおける当該居室において発生した火災により生じた煙又はガスの高さを、令和3年国土交通省告示第475号第二号に掲げる式に基づき計算すること。
ハ ロの規定によって計算した高さが、1.8mを下回らないことを確かめること。
五 令第110条の5に規定する基準に従って警報設備(自動火災報知設備に限る。)を設けた建築物の居室であること。
(参考https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000175.html)
緩和を受ける為の条件をまとめると…
緩和を受ける為の条件
以下5つ全ての条件を満たすこと
居室について以下2つのいずれかに該当すること(ただし、自力避難困難な在館者が利用することが想定される居室を除く)
・床面積が30㎡以内の居室
・居室及び当該居室から地上に通ずる廊下等(採光上有効に直接外気に開放された部分を除く。)で非常用の照明設備を設けていること
廊下等(採光上有効に直接外気に開放された部分を除く。)について以下2つのいずれかに該当すること
・廊下等が、不燃材料で造り、又は覆われた壁又は令第112条第19項第二号に規定する戸で区画されたものであること
・廊下等と廊下等に面する室にスプリンクラー設備等を設けること(ただし、火災の発生のおそれの少ない室」を除く。)
直通階段について以下2つのいずれかに該当すること
・直通階段の階段室が、その他の部分と準耐火構造の床若しくは壁又は建築基準法第2条第九号の二ロに規定する防火設備で令第112条第19項第二号に規定する構造であるもので区画されたものであること。
・直通階段が屋外に設けられ、かつ、屋内から当該直通階段に通ずる出入口にイに規定する防火設備を設けたものであること。
火災の発生のおそれの少ない室に該当すること。(ただし、区画及び告示に定める式で計算した場合を除く)
居室から直通階段に通ずる廊下等が、警報設備(自動火災報知設備に限る。)を設けた建築物の居室であること。
『居室』に関する条件について
居室に関する条件
居室について以下2つのいずれかに該当すること(ただし、自力避難困難な在館者が利用することが想定される居室の除く)
・床面積が30㎡以内の居室
・居室及び当該居室から地上に通ずる廊下等(採光上有効に直接外気に開放された部分を除く。)で非常用の照明設備を設けていること
30㎡以内の小規模な居室は緩和の対象に該当し、30㎡を超える場合であっても居室及びその避難経路に非常用照明を設けることで条件を満たすことができます。
その他、自力避難困難な在館者が利用されると想定されれば、緩和を使うことは出来ません。(パブリックコメントより)この判断については申請先含め確認をした方が良さそうですね。
また、30㎡の居室については間仕切り壁等で明確に区画されている必要があります。つまり、ホールや廊下等の一部分(30m²以下)を居室的に利用する場合、「床面積が30m²以下の居室」には該当しません。(パブリックコメントより)合わせて確認しておきましょう。
また、廊下に関しては採光上有効に直接外気に開放された部分は除かれていますが、この条件は防火避難規定の解説に記載されているものと同様と考えるのが妥当でしょう。合わせて確認してください。
『廊下等』に関する条件について
廊下等に関する条件
廊下等(採光上有効に直接外気に開放された部分を除く。)について以下2つのいずれかに該当すること
・廊下等が、不燃材料で造り、又は覆われた壁又は令第112条第19項第二号に規定する戸で区画されたものであること
・『廊下等』と『廊下等に面する室』にスプリンクラー設備等※を設けること(ただし、火災の発生のおそれの少ない室」を除く。)
※スプリンクラー設備等…スプリンクラー設備(水源として、水道の用に供する水管を当該スプリンクラー設備に連結したものを除く。)、水噴霧消火設備、泡消火設備その他これらに類するもので自動式のもの
廊下については、区画をするか、区画をしない場合はスプリンクラーが必要になります。また、スプリンクラー設備等を設ける場合は、廊下だけでなく廊下に面する室もスプリンクラー設備等が必要です。
こちらの内容については、パブリックコメント等を参考に、もう少し詳しく解説していきます。
廊下等を区画する場合について
廊下を区画する場合について、いくつかパブリックコメントにより判明していることをまとめます。区画する場合、以下の内容に注意しましょう
・区画する場合、原則として壁を天井裏まで立ち上げることが必要(ただし、天井を不燃材料で造り又は覆われたものとすることを前提に、壁は天井面まで立ち上げたものでもok)
・不燃区画に関しては、第112条第20項及び第21項の規定に基づく貫通部処理は要求されない
・不燃区画について、床の耐火性能等は要求されない
・『木造の下地に、告示仕様の不燃材料と大臣認定品の不燃材料を認定仕様の範囲内で組 み合わせた被覆を施した壁』と『下地を不燃材料で造り、仕上げを木材でしたもの』はそれぞれ「不燃材料で造り、又は覆われた壁」に該当する
廊下等にスプリンクラーを設置する場合について
スプリンクラー設備等は、廊下等だけでなく、『廊下等に面する室』にも必要です。したがって、廊下に多くの室が面している場合、多くの室にスプリンクラー設備が必要になります。
ただし、後ほど解説する『火災の発生のおそれの少ない室』については、スプリンクラー設備は不要となります。これによって、スプリンクラー設備が必要になる室を減らすことが可能となります。
その他、パブリックコメントにより以下の内容が明らかになっているので合わせて確認しておきましょう。
・スプリンクラー設備等には、パッケージ型自動消火設備は含まれない
『直通階段』に関する条件について
直通階段に関する条件
直通階段について以下2つのいずれかに該当すること
・直通階段の階段室が、その他の部分と準耐火構造の床若しくは壁又は防火設備で令第112条第19項第二号に規定する防火設備で区画されたものであること。
・直通階段が屋外に設けられ、かつ、屋内から当該直通階段に通ずる出入口に令第112条第19項第二号に規定する防火設備を設けたものであること。
簡単に言うと、竪穴区画をすればokということです。
廊下等を『火災の発生のおそれの少ない室』に関する条件について
廊下等を火災の発生のおそれの少ない室に関する条件
居室から直通階段に通ずる廊下等が、火災の発生のおそれの少ない室に該当すること。ただし、以下の2つの条件を満たした場合を除く
・不燃材料で造り、又は覆われた壁又は戸で令第112条第19項第二号に規定する構造であるもので区画された居室
・居室で火災が発生した場合においても当該居室からの避難が安全に行われることを火災により生じた煙又はガスの高さに基づき検証する方法により確かめられた場合(告示475号)
ところで、『火災の発生のおそれの少ない室』って何?
火災の発生のおそれの少ない室
以下に該当する建築物の部分で、壁・天井の室内に面する部分の仕上げを準不燃材料とした室
- 昇降機その他の建築設備の機械室、不燃性の物品を保管する室その他これらに類するもの
- 廊下、階段その他の通路、便所その他これらに類するもの
火災の発生のおそれの少ない室については以下の記事で詳しく解説しています。
また、もし廊下等の避難経路部分が火災の発生のおそれの少ない室に該当したとしても、不燃材料で区画し、告示475号の検討を行えば緩和を適用することが可能です。ただ、この告示475号は階避難安全検証法の煙高検証法(ルートB2)で、比較的新しく登場した性能規定です。まだ不明確な内容が多いので、こちらで検討を行うのは少し難しいかもしれませんね。
『警報設備』に関する条件について
警報設備(自動火災報知設備に限る。)を設けた建築物の居室であること。
こちらは、単純に警報設備を設けているだけで条件を満たすことが出来ます。
どんな場合に緩和を適用すべきか?
まずは、歩行距離(令120条)が短くなることのメリットを考えてみましょう。
私の経験上、令120条の歩行距離はそんなに計画で問題になる規制ではありません。無窓居室を計画して歩行距離が30mになったとしても、居室から階段が30mを超えることは少ないからです。もし歩行距離が30mを超える場合であっても、内装制限を追加することで40mにも出来ます。さらに言うと、階避難安全検証法を適用してしまえば、適用除外可能です。
むしろ、歩行距離が短くなることで得られるメリットは、『重複距離』(令121条3項)の距離が短くなることです。
重複距離とは、2つの階段までの経路が重複している距離のことです。この距離は、『令120条で定める歩行距離の1/2』です。つまり、30mの歩行距離だった場合、重複距離は15mになってしまいます。15mだと、階段の位置が悪いと結構簡単にNGになります。しかも、重複距離は避難安全検証法で適用除外が出来ない厄介な規制なのです。したがって、重複距離が不足している場合は、今回の緩和を積極的に適用しましょう。
また、令125条1項の歩行距離(避難階における歩行距離)も緩和の適用により伸ばすことが可能です。しかし、いくつかの条件がありますので、詳細については技術的助言技術的助言を確認するようにしましょう。
まとめ
✔︎所定の条件を満たすことで、無窓居室であっても、歩行距離の制限が、30→40m又は50mになる
✔︎所定の条件とは、以下5つ全ての条件を満たすこと
①居室について以下2つのいずれかに該当すること(ただし、自力避難困難な在館者が利用することが想定される居室を除く)
・床面積が30㎡以内の居室
・居室及び当該居室から地上に通ずる廊下等(採光上有効に直接外気に開放された部分を除く。)で非常用の照明設備を設けていること
②廊下等(採光上有効に直接外気に開放された部分を除く。)について以下2つのいずれかに該当すること
・廊下等が、不燃材料で造り、又は覆われた壁又は令第112条第19項第二号に規定する戸で区画されたものであること
・廊下等と廊下等に面する室にスプリンクラー設備等を設けること(ただし、火災の発生のおそれの少ない室」を除く。)
③直通階段について以下2つのいずれかに該当すること
・直通階段の階段室が、その他の部分と準耐火構造の床若しくは壁又は建築基準法第2条第九号の二ロに規定する防火設備で令第112条第19項第二号に規定する構造であるもので区画されたものであること。
・直通階段が屋外に設けられ、かつ、屋内から当該直通階段に通ずる出入口にイに規定する防火設備を設けたものであること。
④居室から直通階段に通ずる廊下等が、火災の発生のおそれの少ない室に該当すること。(ただし、区画及び告示に定める式で計算した場合を除く)
⑤警報設備(自動火災報知設備に限る。)を設けた建築物の居室であること。
✔︎なかなか複雑な条件だが、重複距離においては有効に利用できるので積極的に使うべき