建築基準法

後退緩和(セットバック)の算定方法|塀・擁壁の扱い、緩和の併用

後退緩和(セットバック)ってなに?

塀・擁壁・庇は後退緩和の対象になる?

後退緩和は、他の緩和と併用できる?

こんなお悩みに、答えます!

まずは結論から…

後退緩和(セットバック)とは、道路斜線制限の緩和のこと。建築物が道路境界線から後退している場合に適用できる緩和

塀・擁壁・庇がある場合の扱いは下記の通り

高さが1.2m以下の場合には、緩和の距離算定から除くことができるただし、その高さの測り方に落とし穴があるので注意)
擁壁 原則、緩和の距離算定から除くことができる(ただし、擁壁の上に塀がある場合には注意が必要)
原則、緩和の算定距離からは除かれない(ただし、所定の条件を満たした場合は、除くこともできる)

後退緩和(セットバック)は、他の道路斜線制限の緩和と併用OK

後退緩和(セットバック)は、道路斜線制限で1番使いやすい緩和です!

でも、実務では、ちょっと判断に迷う場合もあるんですよね…

そこで、今回はわかりやすい『QA形式』にして、後退緩和(セットバック)の悩ましい疑問をすべて解決します!X:sozooro

書いている人
そぞろ

指定確認検査機関にて、過去に5000件以上の物件の相談や審査業務を行っていた経験を生かし、ブログやSNSで建築法規に関する発信を行っている。
Instagram、X、LINE@などのSNSのフォロワーは延べ4万人以上。 詳しいプロフィールはこちらから
著書:用途と規模で逆引き! 住宅設計のための建築法規/学芸出版社

『後退緩和(セットバック)』とは?

後退緩和とは、建築物が道路境界線から後退している場合に使える道路斜線制限の緩和

他の道路斜線制限の緩和に比べて、圧倒的に使いやすい緩和

道路斜線制限には、数多くの緩和があります。道路斜線緩和の詳細については、下記の記事で確認してみてください。

道路斜線制限の計算方法などの基本的な内容については、下記の記事を確認してみてください。

しかし、ほとんどの緩和が、敷地によって使える緩和が限られています。例えば、川がある場合とか、道路が2つ以上接している場合などです。要するに、敷地によっては使えない緩和が多いということです。

しかし、後退緩和(セットバック)の場合は、道路境界線から建築物を後退させるだけで使える緩和!

道路斜線の緩和で、最も使いやすい緩和です!

後退緩和(セットバック)の『算定方法』とは?

道路境界線から建築物までのセットバックの距離分だけ、道路の反対側に距離を増やして算定が可能

後退しているAの数値分、道路反対側に距離を増やして算定が可能となります!

後退緩和(セットバック)は、道路から建築物を離せば離すほど、距離を伸ばして算定することができます。

だから『道路から後退している距離がいくつなのか?』が非常に重要になるんです!
でも、敷地境界線沿いに塀を作ったら、0になってしまう?塀も建築物扱いだもんね?
いえ!塀などの所定の条件を満たす建築物は、ないものとみなすことができます!

用語の定義により、塀なども建築物扱いとなります。(建築物の定義について確認したい方はこちらから)だから、隣地境界線沿いに塀を計画した場合には、後退緩和が0になってしまうのではないか?と思いますよね。

しかし、所定の条件を満たす建築物については、ないものとして、距離を算定することが可能です。

後退距離の算定から除くことができる建築物の部分(令130条の12)

物置その他これに類する用途に供する建築物の部分で次に掲げる要件に該当するもの

(1)軒の高さが2.3m以下で、かつ、床面積の合計が5㎡以内であること。

(2)当該部分の水平投影の前面道路に面する長さを敷地の前面道路に接する部分の水平投影の長さで除した数値が1/5以下であること。

(3)当該部分から前面道路の境界線までの水平距離のうち最小のものが1m以上であること。

ポーチその他これに類する建築物の部分で、次に掲げる要件に該当するもの

(1)高さが5m以下であるもの
(2)当該部分の水平投影の前面道路に面する長さを敷地の前面道路に接する部分の水平投影の長さで除した数値が1/5以下であること。
(3)当該部分から前面道路の境界線までの水平距離のうち最小のものが1m以上であること。
道路に沿って設けられる高さが2m以下の門又は塀(高さが1.2mを超えるものにあつては、当該1.2mを超える部分が網状その他これに類する形状であるものに限る。)

隣地境界線に沿って設けられる門又は塀

歩廊、渡り廊下その他これらに類する建築物の部分で、特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況を考慮して規則で定めたもの

前各号に掲げるもののほか、建築物の部分で高さが1.2m以下のもの

なお、隣地境界線沿いの塀は、④に該当するため、後退緩和ではないものとして考えることができます。

この前提を踏まえた上で、さまざまなケースで後退緩和の距離がどうなるのか、考えていきましょう!

後退緩和(セットバック)、『こんな場合』はどうする?

後退緩和は、簡単なように見えて、実務で遭遇すると悩ましいケースがたくさんあります。

そこで、ここからQA形式で9パターンの場合の後退緩和の算定方法について考えていきましょう!

Q.『塀』がある場合は?

敷地内に『塀』がある場合は、どうなるの?

『道路境界線沿い』か『隣地境界線沿い』で大きく異なる

道路境界線沿い前面道路の中心から塀の高さが1.2m以下であれば、緩和の距離算定から除くことができる(網状のものであれば、2m以下でOK)

隣地境界線沿い無条件で、緩和の距離算定から除くことができる

やはり、注意すべきは道路境界線沿いの塀です。高さの制限があります。基本は1.2m以下、網状であれば2mまでOKです。ちまみに、門も同じ考え方です。

しかし、この塀には1つ注意すべきことがあります。それは、高さの算定方法です。

塀の高さは、『前面道路の路面の中心からの高さ』となります。

つまり、道路と敷地に高低差があると、低い塀でも、1.2mを超えてしまう可能性があるということです。これが、結構見落としてしまう方が多いんですよね…

したがって、道路境界線沿いの塀が後退緩和に含まれるかどうかは、『高さ』に気をつけるようにしてください。

Q.『擁壁』がある場合は?

じゃあ、『擁壁』の場合だったら、どうなるの?

擁壁だけだったら、高さに関係なく、緩和の距離算定から除くことができる(擁壁は無視してOK)

ただし、擁壁の上に塀があった場合は、塀の扱いの準じることになる(その場合、緩和の算定距離に含まれる可能性が高い)

まず、擁壁だけ計画されている場合、高さは関係なく、緩和の距離算定には含みません。

どうして、擁壁は高さの算定に関係せず、緩和の距離算定に含まないの?
それは、擁壁は『建築物』ではないからです。(強いて言うなら、工作物の仲間です)

ここで改めて建築物の定義を振り返ってみましょう。塀については、『建築物に付属している場合』には建築物扱いです。一方、擁壁はこの条件には該当しません。詳しくは、下記の記事で確認してみてください。

建築物に該当しないのであれば、後退緩和の距離の算定に含む必要はありません。

でも、擁壁の上に塀を計画した場合には、塀として、後退緩和の距離の算定に関係するかもしれません。
確かにそうだね!
そして、『塀がある場合の後退距離は?』で解説した通り、擁壁が必要となる高低差がある敷地の塀は後退緩和の距離の算定に含める可能性が高いので、注意してください
確かに、落下防止のために塀を計画する可能性が高いから、擁壁の上に塀を計画する可能性は高そう…気をつけるよ!

Q.『庇』がある場合は?

『庇』の場合は、どうなるの?

庇の場合は、原則として、後退緩和の距離から除かれない(庇が後退緩和距離になってしまう)

ただし、下記すべての条件を満たした場合は、緩和の距離算定から除くことができる(庇は無視してOK)

①高さが5m以下であるもの
②当該部分の水平投影の前面道路に面する長さを敷地の前面道路に接する部分の水平投影の長さで除した数値が1/5以下であること。
③当該部分から前面道路の境界線までの水平距離のうち最小のものが1m以上であること。

庇は、基本的には、後退緩和の距離から除くことができません。ただし、所定の条件を満たした場合は、令130条の12の外構条件に該当するので、除くことができます。

条件の中で、やっぱりなかなか該当しないのは③ですね。道路境界線から1m離れているって、結構余裕がある計画なので、狭小敷地だと難しかったりします

Q.『建築設備』がある場合は?

『建築設備』の場合だったら、どうなるの?

建築設備の場合は、高さ1.2m以下か、超えるかによる

高さ1.2m以下後退緩和の距離から除くことができる(建築設備は無視してOK)

高さ1.2m超え後退緩和の距離から除かれない(建築設備が後退緩和距離になってしまう)

建築設備は、建築物扱いです。したがって、原則として、後退緩和の距離から除くことは出来ません。しかし、令130条の12に書かれている『前各号に掲げるもののほか、建築物の部分で高さが1.2m以下のもの』という記載により、高さ1.2m以下の場合は除くことができます。

Q.他の道路斜線制限の緩和と『併用』ができるか?

他の緩和(川等の緩和、2A緩和、高低差緩和)と併用して使うことはできる?

できます!その場合、緩和を使う順番は結構大事です。

道路斜線制限には、様々な緩和があります。これらの緩和は、原則として、すべて併用することが可能です。

ただ、緩和を使う順番は守った方が、混乱が少ないです。私としては、下記の順番で緩和を使うことをおすすめしています!

緩和を使う順番

川等の緩和2A緩和後退緩和

実際に、この順番で検討してみたらわかりやすい!という事例を下記の書籍で紹介しているので、お持ちであれば読んでみてください。

Q.『不整形な建築物』や『複数の建築物がある場合』は?

不整形な建築物の場合とか、複数の建築物がある場合、後退緩和の距離はどこになる?

道路境界線から1番近い建築物の部分が後退緩和の距離となる

不整形な建築物や敷地内に複数の建築物がある場合、後退緩和の距離はわかりにくいと感じる方が多いです。

ただ、これに関してはシンプルに考えてください!基本的には、『道路境界線から1番近い部分』でOKです。

唯一、後退緩和の距離から除くことができるのは、先ほどから紹介している所定の条件を満たした塀などの、令130条の12に定められている建築物のみです。これらの建築物を除き、道路境界線から1番近い建築物の部分を探してください。

Q.『2以上の道路に面する場合』は?

たくさんの道路に接道している場合、後退緩和の距離はどうなるの?

道路ごとに、それぞれ後退距離を求める

(つまり、2つの道路に接している場合には、後退距離は2箇所)

敷地が複数の道路に接道している場合、というのはとくあると思います。この場合、後退緩和の距離も、それぞれの道路で求めることとなります。

Q.『隅切りがある場合』は?

2つの道路に接道している場合、隅切りがあると思うんだけど…隅切りはどうやって距離を測ればいい?

原則として、隅切り部分はないものとして後退緩和の距離を測る

もし、後退距離を隅切りから測るとすると、距離がとても短くなることが想定されます。しかし、原則として、隅切りはないものとして考えてOKです。

Q.後退距離の算定に『迷ったとき』は?

もし、後退緩和の算定に含めるかどうか迷った場合はどうすればいい?

安全側の距離で算定する(又は、申請先に相談するようにしましょう)

建築法規には鉄則があります。それは、『迷った時には、安全側で検討をする』ということです。安全側で検討している限りは、違反行為をすることはありません。あまり、責めた計画をして、適合しない…ということになることは、一番避けるべきことです。

安全側では適合しない…という場合には、事前に申請先に確認しておきましょう!

建築基準法で『後退緩和』を確認する

最後に、敷地内通路の法文である、建築基準法56条2項を確認してみましょう!
建築基準法56条2項
前面道路の境界線から後退した建築物に対する前項第一号の規定の適用については、同号中「前面道路の反対側の境界線」とあるのは、「前面道路の反対側の境界線から当該建築物の後退距離(当該建築物(地盤面下の部分その他政令で定める部分を除く。)から前面道路の境界線までの水平距離のうち最小のものをいう。)に相当する距離だけ外側の線」とする。

まとめ

✔️後退緩和とは、建築物が道路境界線から後退している場合に使える道路斜線制限の緩和で、道路斜線制限の緩和の中でも最も使いやすい

✔️算定方法は、道路境界線から建築物までのセットバックの距離分だけ、道路の反対側に距離を増やして算定が可能

✔️ただし、令130条の12に該当する建築物の部分については、後退緩和の距離から除くことができる

✔️後退緩和の距離に含めるかどうかは、塀・擁壁・庇などによって、扱いが異なるので、よく確認する必要がある

ABOUT ME
そぞろ。
このサイトを作成している管理者。建築法規に関わる仕事をしています。難解な建築基準法をわかりやすく、面白く解説して、『実は簡単なんじゃないの?』と勘違いしてもらいたい。著書『用途と規模で逆引き!住宅設計のための建築法規』

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