建築基準法

延焼ラインの緩和について【2020最新法規】

今回は『延焼ライン(延焼のおそれのあるライン)の緩和』についての記事です。

 

2019年の法改正より、延焼ラインに新たな緩和規定が追加になった事をご存知ですか?

実は、それなりに使えそうな緩和が追加になっています。

ただし、非常に残念なことにややこしい計算式が登場し、なかなか難しいです。

今回はそんな、新しく追加になった『延焼ライン(延焼のおそれのあるライン)の緩和』についてわかりやすく解説していきたいと思います。

書いている人
そぞろ

指定確認検査機関にて、過去に5000件以上の物件の相談や審査業務を行っていた経験を生かし、ブログやSNSで建築法規に関する発信を行っている。
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著書:用途と規模で逆引き! 住宅設計のための建築法規/学芸出版社

まずは法文を確認する

 

建築基準法第2条第1項第六号 延焼のおそれのある部分
隣地境界線、道路中心線又は同一敷地内の2以上の建築物(延べ面積の合計が500平方メートル以内の建築物は、一の建築物とみなす。)相互の外壁間の中心線(ロにおいて「隣地境界線等」という。)から、1階にあつては3メートル以下、2階以上にあつては5メートル以下の距離にある建築物の部分をいう。ただし、次のイ又はロのいずれかに該当する部分を除く。
イ 防火上有効な公園、広場、川その他の空地又は水面、耐火構造の壁その他これらに類するものに面する部分
ロ 建築物の外壁面と隣地境界線等との角度に応じて、当該建築物の周囲において発生する通常の火災時における火熱により燃焼するおそれのないものとして国土交通大臣が定める部分

 

最新の法改正で追加になったのは赤マーカーした部分になります。

緩和の詳細内容は告示第197号に記載があります。(ややこしくて複雑ですが、それでも自分で読みたい方は下をクリックしてください)

『告示197号』を確認する

建築基準法第2条第六号ロに規定する建築物の周囲において発生する通常の火災時における火熱により燃焼するおそれのない部分は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める建築物の部分以外の部分とする。一 隣地境界線等(法第二条第六号に規定する隣地境界線等をいう。以下同じ。)が同一敷地内の2以上の建築物(延べ面積の合計が500平方メートル以内の建築物は、一の建築物とみなす。) 相互の外壁間の中心線であって、かつ、当該隣地境界線等に面する他の建築物(以下単に「他の 建築物」という。)が主要構造部が建築基準法施行令第107条各号、同令第107条の2各号、同令第108条の3第一項第一号イ及びロ若しくは同令第109条の3第一号若しくは第二号に掲げる基準に適合する建築物又は同令第136条の2第一号ロ若しくは第二号ロに掲げる基準に適合する建築物である場合 次のいずれにも該当する建築物の部分

イ 隣地境界線等から、建築物の階の区分ごとに次の式によって計算した隣地境界線等からの距離以下の距離にある当該建築物の部分
d=max{D , A(1-0.000068θ²)}
この式において、d、D、A及びθは、それぞれ次の数値を表すものとする。
d 隣地境界線等からの距離(単位 メートル)
D 次の表の上欄に掲げる建築物の階の区分に応じ、それぞれ同表下欄に掲げる数値(単位 メートル)
一階 二・五
二階以上 四
A 次の表の上欄に掲げる建築物の階の区分に応じ、それぞれ同表下欄に掲げる数値(単位 メートル)
一階 三
二階以上 五
θ 建築物の外壁面(隣地境界線等に面するものに限る。)と当該隣地境界線等とのなす 角度のうち最小のもの(当該外壁面が当該隣地境界線等に平行である場合にあっては、零とする。)(単位 度)

ロ 他の建築物の地盤面から、次の式によって計算した他の建築物の地盤面からの高さ以下にあ る建築物の部分
h=Hlow+H+5√ { 1-( S/Dfloor)}
この式において、h、 、H、S及び は、それぞれ次の数値を表すものとする。
h 他の建築物の地盤面からの高さ(単位 メートル)
Hlow 他の建築物の高さ(単位 メートル)
H 次の表の上欄に掲げる他の建築物の高さの区分に応じ、それぞれ同表下欄に掲げる数 値(単位メートル)
五メートル未満 五
五メートル以上 十
S 建築物から隣地境界線等までの距離のうち最小のもの(単位 メートル) イに規定する隣地境界線等からの距離のうち最大のもの(単位 メートル)

二 前号に掲げる場合以外の場合 隣地境界線等から、建築物の階の区分ごとに前号イに掲げる式 によって計算した隣地境界線等からの距離以下の距離にある建築物の部分

よくわからない数式がたくさんありますが、とりあえずそっと閉じておきましょう。(ややこしい告示ですよね)

わかりやすく解説していきますね。

 

緩和の使い道は2種類ある

実は今回の告示の使い方は2つの分類されます。

その2つとは、簡単に言うと“距離で検討”と“高さで検討”です。

そして、それぞれで緩和できる内容が異なります。

緩和できる内容が異なるってどういう事?
延焼ラインって、“隣地境界線から”と“道路中心線から”と“建物相互の間からこの3つから発生するものです。

距離で検討高さで検討で、緩和できるものが違うって事!

まとめるとこのような感じ。

緩和できる延焼ライン(法文上の隣地境界線等
①距離で検討 隣地境界線の延焼ライン

道路中心線の延焼ライン

建物相互の間の延焼ライン※条件付き(延べ面積の合計が500平方メートル以内の建築物は、発生なし)

(3つ全て緩和可能)

②高さで検討 建物相互の間の延焼ライン※条件付き(延べ面積の合計が500平方メートル以内の建築物は、発生なし)のみ緩和可能

(①の距離で検討が全ての延焼ラインで使えるというのは、第二号部分でわかります。ここが一番読みにくい。)

例えば、②の高さの検討で延焼ラインの計算を行っても、道路中心線や隣地境界線から緩和は使えません。②の高さの検討では、建物相互間のみしか緩和できませんから。

 

注意!建物相互間の延焼ラインについては条件付き

高さ方向と距離方法どちらの共通しての話になるのですが、建物相互の間の延焼ラインの緩和を受ける場合、見逃してはいけない条件があります。

それは、どんな条件かというと、

他の建築物(緩和を受けない側の建築物)の主要構造部の制限があります。

要は、耐火構造とか準耐火構造にするって事です。まとめると、以下のようになります。

他の建築物の主要構造部の条件

◆施行令第107条各号(耐火構造)

◆施行令第107条の2各号(45分準耐火構造)

◆施行令第108条の3第一項第一号イ、ロ(耐火性能検証法)

◆施行令第109条の3第一号若しくは第二号に掲げる基準に適合する建築物(ロ準耐火)

◆施行令第136条の2第一号ロ若しくは第二号ロに掲げる基準に適合する建築物(地階を除く階数が3以下である建築物の技術的基準

緩和を受けない側の建築物の主要構造部はよく確認するようにしましょう。

 

①距離の検討で緩和する計算について

通常の延焼ラインと同じで1階と2階以上で計算式が異なります。

階数 計算式
1階 d=max{2.5,3(1-0.000068θ²)}
2階以上 d=max{ 4 ,5(1-0.000068θ²)}
d=緩和された延焼ライン

θ=隣地境界線等に面する建築物の外壁面と当該隣地境界線等とのなす角度のうち最小のもの

計算方法は大丈夫だとは思いますが、max{A,B}だったら、AとBの大きい方という意味。

ここで、複雑に見えた式の不明数字はθのみという事がわかりました。だから、θさえわかれば計算可能です。

1階でθが30度だった場合を計算

d=max{2.5,3(1-0.000068×30²)}

d=max{2.5,2.81}

大きい方なので、延焼ラインは“2.81”となる(通常なら3m)

そんなに難しくないですよね?

ただし、問題なのは不明数値のθ(角度)の考え方です。

θの考え方についてはパブリックコメントがわかりやすいです。

引用『建築基準法防火関係等告示の制定・改正に関する意見募集の結果について』より

その他、質疑応答集に“隣地境界線等に面するの考え方”と、“角度の考え方”の図解があるので、以下画像を引用します。

 

隣地境界線等に面するの考え方

引用『建築基準法の一部を改正する法律(平成 30 年法律第 67 号)に係る質疑応答集』より

 

角度の考え方

引用『建築基準法の一部を改正する法律(平成 30 年法律第 67 号)に係る質疑応答集』より

 

②高さの検討で緩和する計算について

仮に、距離の検討をレベル1の検討とするのであれば、高さの検討はレベル2です。

理由は、高さの検討式に“距離の検討式で算定した値を用いるから”です。

早速計算式を確認してみましょう。

他の建築物の高さ 計算式
5m未満 h=h low+5+5√{1-(S/d floor)²}
5m以上 h=h low+10+5√{1-(S/d floor)²}
h=他の建築物の地盤面からの高さ(単位 メートル)

h low=他の建築物の高さ(単位 メートル)

S=建築物から隣地境界線等までの距離のうち最小のもの(単位 メートル)

dfloor=イに規定する隣地境界線等からの距離のうち最大のもの(単位 メートル)

で?この式でhを求めるってのはわかったけど緩和はどんな感じになるの?
そちらについては技術的助言の画像を見るとわかりやすい!

引用『建築基準法防火関係等告示の制定・改正について(技術的助言)』より

要は、h以上は延焼ラインが発生しないという事です。(もちろん冒頭に説明した通り、建物相互間の延焼ラインの緩和しか使えないのですが)

 

では、計算式の説明をします。

まず、d floorというのが、先ほどの距離の検討の時に検討した数値になります。だからこの求め方は省略します。(レベル2になっている理由ですね)

h lowは全然難しくありません。他の建築物の高さを代入すればokです。

悩ましいのはSです。S(建築物から隣地境界線等までの距離のうち最小のもの)についても質疑応答集で色々図解が出ているので確認していましょう!

 

S(建築物から隣地境界線等までの距離のうち最小のもの)の考え方

引用『建築基準法防火関係等告示の制定・改正について(技術的助言)』より

 

まとめ:条件はしっかり把握すべし

緩和できる延焼ライン(法文上の隣地境界線等
①距離で検討 隣地境界線の延焼ライン

道路中心線の延焼ライン

建物相互の間の延焼ライン※条件付き(延べ面積の合計が500平方メートル以内の建築物は、発生なし)

3つ全て緩和可能

②高さで検討 建物相互の間の延焼ライン※条件付き(延べ面積の合計が500平方メートル以内の建築物は、発生なし)のみ緩和可能

一番大事なのは、冒頭に説明した通り、緩和できる延焼ラインが異なるという点です。スタートの根本的な部分なので身長に!

最後までありがとうございました!

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そぞろ。
このサイトを作成している管理者。建築法規に関わる仕事をしています。難解な建築基準法をわかりやすく、面白く解説して、『実は簡単なんじゃないの?』と勘違いしてもらいたい。著書『用途と規模で逆引き!住宅設計のための建築法規』

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