建築基準法

【長屋と共同住宅の違い】長屋の方が法規制が緩いとは限らない

PR

今回は『長屋と共同住宅の違い』についての記事です。

 

長屋と共同住宅の違いは、ズバリ、共用部があるかどうかです。

共用部があれば共同住宅、共用部が無ければ長屋となります。

 

そして、建築基準法上の大きな違いとしては、共同住宅のみ『特殊建築物』に分類されており、

一般的には共同住宅にした方が避難規定などがかかり、建築基準法が厳しい!と思われがちなのですが、

実は、長屋の方が厳しい法規制もあるという事はご存知ですか?

 

そこで、今回は

①長屋と共同住宅の形態の違い

②共同住宅より長屋の方が厳しい法規制

この2点についてまとめてみました。

書いている人
そぞろ

指定確認検査機関にて、過去に5000件以上の物件の相談や審査業務を行っていた経験を生かし、ブログやSNSで建築法規に関する発信を行っている。
Instagram、X、LINE@などのSNSのフォロワーは延べ4万人以上。 詳しいプロフィールはこちらから
著書:用途と規模で逆引き! 住宅設計のための建築法規/学芸出版社

長屋と共同住宅の形態の違い

冒頭にお伝えした通りなのですが、共用部があるかどうかで判断をします。

長屋 各住戸へ外部から直接出入り可能
共同住宅 共用部(廊下、階段)を介して各住戸へ出入りする

結論としてはこれだけなのですが、

今回は『どうしても長屋か共同住宅かの判断が申請機関や特定行政庁によって分かれてしまう厄介な形態』をご紹介します。

さて、こちらの共用部が不要な住戸は共同住宅ですか?長屋ですか?

共用部があるんだから、『共同住宅』なんじゃないの?
そう思いますよね。ところがどっこい、これが意見が3つに分かれます。

実は、この形状だと意見が3つに分かれます。

①共同住宅(5戸)

②共同住宅(4戸)+長屋(1戸)

③共同住宅(4戸)+一戸建住宅

 

こればかりは、審査機関や特殊建築物に確認が必要ですが、

一般的には圧倒的に『②共同住宅(4戸)+長屋(1戸)』が多い

そして、この場合は長屋と共同住宅それぞれの建築基準法、条例の確認が必要です。

だから、確認する条文も多くなるので面倒が増えるかもしれません。

こんなのいちいち確認するのめんどくさい!どうせ特殊建築物の共同住宅が厳しいんだったら、私は『共同住宅(5戸)』で計画する!
ちょっと待ってください!共同住宅の方が厳しいなんて決め付けはできないんです!

そう、それは冒頭でご説明した通り、長屋の方が法規制が厳しい場合があるからです。

 

共同住宅より長屋の方が厳しい法規制

大きく、2つあります。

①排煙設備

排煙計算(令116条の2)、みなさんしてますよね?(居室の面積/50の検討)

そこで、確保できず、排煙無窓になってしまう事もあると思います。

 

そこで、共同住宅にも、長屋にも、救済措置があります。

つまり、救済措置を使えば、排煙計算がNGになってもokって事です。

 

そこで、出てくるのが長屋と共同住宅の違いで、

共同住宅は救済処置の条文は、使いやすいです。

一方、長屋は救済処置の条文は、使う条件が共同住宅よりも使いにくいです。

共同住宅(施行令第126条の2第1項第一号) 準耐火構造の壁床、防火設備で200㎡以下に区画すればok
長屋(施行令第126条の2第1項第五号) 階数2以下 かつ 200㎡以下 かつ 換気有窓にすればok

 

つまり、

長屋の3階建の部分は、救済措置が使えないから、排煙無窓になったら、排煙設備を付けるしかない

逆に、共同住宅は区画さえしてしまえば、階数は関係無く、排煙計算はNGでもいいんです。

 

条文でも確認しておきましょう!

共同住宅の条文

 

建築基準法施行令第126条の2 設置
(省略)

排煙設備を設けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する建築物又は建築物の部分については、この限りでない。

 法別表第1(い)欄(2)項に掲げる用途に供する特殊建築物のうち、準耐火構造の床若しくは壁又は法第2条第九号の二ロに規定する防火設備で区画された部分で、その床面積が100m2共同住宅の住戸にあつては、200m2)以内のもの

 

 

長屋の条文

 

建築基準法施行令第126条の2 設置
(省略)

排煙設備を設けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する建築物又は建築物の部分については、この限りでない。

 火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分として、天井の高さ、壁及び天井の仕上げに用いる材料の種類等を考慮して国土交通大臣が定めるもの

⬇︎

〈建設省告示第1436号〉 四  次のイからホまでのいずれかに該当する建築物の部分
階数が二以下で、延べ面積が二百平方メートル以下の住宅又は床面積の合計が二百平方メートル以下の長屋の住戸の居室で、当該居室の床面積の二十分の一以上の換気上有効な窓その他の開口部を有するもの

 

 

②地方公共団体の条例

2つ目は『地方公共団体条例(法第40条)』について。

これは、もちろん条例次第なので一概には言えませんが、地方公共団体の条例は長屋の方が厳しい事があります。

 

たとえば、『東京都安全条例』で確認してみましょう。(東京都安全条例を東京都HPで確認

床面積90㎡の建築物を長屋と共同住宅それぞれを計画した場合の『主要な出入り口までの敷地内通路』について確認してみましょう!

安全条例第17条(共同住宅) 100㎡以下なので、1.5mの敷地内通路
安全条文第5条第1項(長屋) 最低でも2mの敷地内通路

このように、長屋の方が厳しくなる事もあります。(※もちろん、他の条文もあるので一概には言えません)

 

では、試しに『埼玉県建築基準法施行条例』も確認してみましょう。(埼玉県建築基準法施行条例を埼玉県HPで確認埼玉県建築基準法施行条例を埼玉県HPで確認

同じ条件で、床面積90㎡の建築物を長屋と共同住宅それぞれを計画した場合の『主要な出入り口までの敷地内通路』について確認してみましょう!

埼玉県建築基準法施行条例第17条(共同住宅) 100㎡以下なので、1.5mの敷地内通路
埼玉県建築基準法施行条例第5条(長屋) 最低でも2mの敷地内通路

 

今回ご紹介した2つは敷地内通路の話でしたが、他にも長屋だと共同住宅とか異なる条文がかかり、条件によっては厳しくなったりします。

色々言いましたが、結論をまとめると

長屋の条文は共同住宅より厳しい場合があるのでしっかり確認する必要がある

 

まとめ:共同住宅よりも長屋の方が法規制が緩い!と安易に考えない方がいい

いかがでしたか?

共同住宅と長屋の形態の違い、そして法規制の違いをご説明させていただきました。

 

特に注意が必要なので条例で、長屋では適合できないけど、共同住宅だったら適合できる!という事は十分あり得ます。

選択肢としては“あえて共同住宅で計画する”というのも有りかもしれません。

最後までありがとうございました!

ABOUT ME
そぞろ。
このサイトを作成している管理者。建築法規に関わる仕事をしています。難解な建築基準法をわかりやすく、面白く解説して、『実は簡単なんじゃないの?』と勘違いしてもらいたい。著書『用途と規模で逆引き!住宅設計のための建築法規』

PR