単体規定

平均天井高さ3mの排煙設備の緩和の正しい使い方について

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今回は『排煙設備の平均高さ3m以上の緩和の正しい使い方』についての記事です。

 

そう、『正しい』使い方です。

どうしてそんなに『正しい』を強調しているの?
それは、間違った解釈で間違って使ってしまっている人が多いからです

実はこの平均天井高さ3m緩和は意外と使いにくく、それなのに、なぜか使いやすいと勘違いされやすい法文なのです。

そこで、今回は正しい緩和の使い方について解説していきます。

書いている人
そぞろ

指定確認検査機関にて、過去に5000件以上の物件の相談や審査業務を行っていた経験を生かし、ブログやSNSで建築法規に関する発信を行っている。
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著書:用途と規模で逆引き! 住宅設計のための建築法規/学芸出版社

天井高さ3mの排煙設備の緩和はどんな時に使えるか

排煙設備の有効部分は一般的には天井面から80㎝しか算定してはいけないという事をご存知ですか?

それは、建築基準法第126条の3第1項第三号に記載があります。

しかし、天井高さは高い建築物の場合、天井面から80㎝の部分だと使い勝手が悪く、設置しにくいです。

そこで、平均天井高さ3m以上の建築物の部分について、排煙設備の有効部分を80㎝以上含めても良いという緩和です。

天井高さが高い工場や倉庫などでよく使われているもの見かけます。

では、緩和の条件を確認してみましょう。

 

天井高さ3mの排煙設備の緩和の5つの条件

こちらの緩和の内容は、『排煙設備の緩和』である、告示第1436号に記載がある条文です。

ということで告示の内容を確認してみましょう。


建築基準法施行令(以下「令」という。)第126条の2第1項第五号に規定する火
災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分 は、次に掲げるものとする。

一 次に掲げる基準に適合する排煙設備を設けた建築物の部分
イ 令第126条の3第1項第一号から第三号まで、第七号から第十号まで及び第
十二号に定める基準
ロ 当該排煙設備は、一の防煙区画部分(令第126条の3第1項第三号に規定す
る防煙区画部分をいう。以下同じ。)にのみ設置されるものであること。
ハ 排煙口は、常時開放状態を保持する構造のものであること。
ニ 排煙機を用いた排煙設備にあっては、手動始動装置を設け、当該装置のうち手で
操作する部分は、壁に設ける場合においては床面から80センチメートル以上1.5メートル以下の高さの位置に、天井からつり下げて設ける場合においては床面か らおおむね1.8メートルの高さの位置に設け、かつ、見やすい方法でその使用す る方法を表示すること。

二 令第112条第1項第一号に掲げる建築物の部分(令第126条の2第1項第二号及び第四号に該当するものを除く。)で、次に掲げる基準に適合するもの
イ 令第126条の3第一項第二号から第八号まで及び第十号から第十二号までに掲げる基準
ロ 防煙壁(令第126条の2第一項に規定する防煙壁をいう。以下同じ。)によって区画されていること。
ハ 天井(天井のない場合においては、屋根。以下同じ。)の高さが3メートル以上 であること。
ニ 壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを準不燃材料でしてあること。
ホ 排煙機を設けた排煙設備にあっては、当該排煙機は、1分間に500立方メートル 以上で、かつ、防煙区画部分の床面積(2以上の防煙区画部分に係る場合にあって は、それらの床面積の合計)1平方メートルにつき1立方メートル以上の空気を排
出する能力を有するものであること。

三 次に掲げる基準に適合する排煙設備を設けた建築物の部分(天井の高さ3メートル以上のものに限る。)
イ 令第126条の3第1項各号(第三号中排煙口の壁における位置に関する規定を除く。)に掲げる基準
ロ 排煙口が、床面からの高さが、2.1メートル以上で、かつ、天井(天井のない場合においては、屋根)の高さの2分の1以上の壁の部分に設けられていること。

ハ 排煙口が、当該排煙口に係る防煙区画部分に設けられた防煙壁の下端より上方に設けられていること。
ニ 排煙口が、排煙上、有効な構造のものであること。

四 次のイからホまでのいずれかに該当する建築物の部分
イ 階数が2以下で、延べ面積が200平方メートル以下の住宅又は床面積の合計が200平方メートル以下の長屋の住戸の居室で、当該居室の床面積の20分の1以上の換気上有効な窓その他の開口部を有するもの
ロ 避難階又は避難階の直上階で、次に掲げる基準に適合する部分(当該基準に適合する当該階の部分(以下「適合部分」という。)以外の建築物の部分の全てが令第 126条の3第1項第一号から第三号までのいずれか、前各号に掲げるもののい ずれか若しくはイ及びハからホまでのいずれかに該当する場合又は適合部分と適合 部分以外の建築物の部分とが準耐火構造の床若しくは壁若しくは同条第2項に規定 する防火設備で区画されている場合に限る。)
(1) 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号。以下「法」という。)別表第一 (い)欄に掲げる用途以外の用途又は児童福祉施設等(令第115条の3第1項第一号に規定する児童福祉施設等をいい、入所する者の使用するものを除く。)、 博物館、美術館若しくは図書館の用途に供するものであること。
(2) (1)に規定する用途に供する部分における主たる用途に供する各居室に屋 外への出口等(屋外への出口、バルコニー又は屋外への出口に近接した出口をい う。以下同じ。)(当該各居室の各部分から当該屋外への出口等まで及び当該屋 外への出口等から道までの避難上支障がないものに限る。)その他当該各居室に存する者が容易に道に避難することができる出口が設けられていること。
ハ 法第27条第三項第二号の危険物の貯蔵場又は処理場、自動車車庫、通信機械 室、繊維工場その他これらに類する建築物の部分で、法令の規定に基づき、不燃性
ガス消火設備又は粉末消火設備を設けたもの
ニ 高さ31メートル以下の建築物の部分(法別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物の主たる用途に供する部分で、地階に存するものを除く。)で、室 (居室を除く。)にあっては(一)又は(二)に、居室にあっては(三)又は(四) に該当するもの
(一) 壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを準不燃材料でし、かつ、屋外に面する開口部以外の開口部のうち、居室又は避難の用に供する部分に面するもの に法第2条第九号の2ロに規定する防火設備で令第112条第14項第一号に規 定する構造であるものを、それ以外のものに戸又は扉を、それぞれ設けたもの
(二) 床面積が100平方メートル以下で、令第126条の2第1項に掲げる防煙 壁により区画されたもの
(三) 床面積100平方メートル以内ごとに準耐火構造の床若しくは壁又は法第二条第九号の二ロに規定する防火設備で令第112条第14項第一号に規定する構造 であるものによって区画され、かつ、壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを 準不燃材料でしたもの
(四) 床面積が100平方メートル以下で、壁及び天井の室内に面する部分の仕上げ を不燃材料でし、かつ、その下地を不燃材料で造ったもの
ホ 高さ31メートルを超える建築物の床面積100平方メートル以下の室で、耐火構造の床若しくは壁又は法第二条第九号の二に規定する防火設備で令第112条第14項第一号に規定する構造であるもので区画され、かつ、壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを準不燃材料でしたもの

平均天井高さ3mの排煙設備の緩和は『告示1436号第三号の部分』です。

告示第1436号第三号より

次に掲げる基準に適合する排煙設備を設けた建築物の部分(天井の高さ3メートル以上のものに限る。)

イ 令第126条の3第1項各号(第三号中排煙口の壁における位置に関する規定を除く。)に掲げる基準

ロ 排煙口が、床面からの高さが、2.1メートル以上で、かつ、天井(天井のない場合においては、屋根)の高さの2分の1以上の壁の部分に設けられていること。

ハ 排煙口が、当該排煙口に係る防煙区画部分に設けられた防煙壁の下端より上方に設けられていること。

ニ 排煙口が、排煙上、有効な構造のものであること。

そこで、平均天井高さ3mの排煙設備の緩和の内容を整理すると、緩和を利用する為には5つの条件があります。

平均天井高さ3mの緩和を使う条件

以下5つ全て適合させる事

①平均天井高さが3m以上である事

②令第126条の3第1項各号に適合したものである事(三号を除く)

③排煙口が 床面からの高さ2.1m以上 かつ 平均天井高さの1/2以上にある事

④排煙口が 防煙垂壁の下端より上方に設けられている事

⑤排煙口が排煙上有効なものである事

では、5つの条件について深掘りしていきましょう。

 

条件①平均天井高さが3m以上である事

告示上では『天井の高さ3m以上のものに限る』と本文に記載がありますが、これは平均天井高さ3m以上という事です。

平均天井高さは勾配天井などの場合以下のように算定します。

まず、平均天井高さが3m以上にならないと今回の緩和は使えないのでよく確認するようにしてください。

 

条件②令第126条の3第1項各号に適合したものである事

令第126条の3は『排煙設備の構造』についての記載がある法文です。

そりゃ、排煙設備の緩和なので、排煙設備の基準にある程度は合致しているものすべきですよね。

排煙設備の構造である令第126条3第1項各号の内容を簡単にまとめると

令第126条3第1項各号の内容(抜粋)

①500㎡以内に防煙区画する事

②排煙口は不燃材料で作る事

③排煙口には手動開放装置を設ける事(そして、見やすい位置に設置し、使いやすい構造にする事)

④防煙区画内の床面積1/50以上の開口有効面積を有する事

etc…

一般的な排煙設備の構造であればokです。詳細は法文で確認ください。

 

条件③排煙口が 天井面からの高さ2.1m以上 かつ 平均天井高さの1/2以上にある事

この緩和の目玉です。

通常だと排煙有効部分は、天井面から80㎝ですが、

天井面からの高さ2.1m以上 かつ 平均天井高さが1/2以上にでokになります。

以下の図のような考え方ですね。

 

条件④排煙口が 防煙垂壁の下端より上方に設けられている事

こちらも考え方としては、通常の排煙設備と全く一緒です。

防煙垂壁がある部分しか排煙有効高さを計算する事ができません。

詳しくは以下の記事を確認してみてください。(実は当サイト一番の人気記事です)

 

条件⑤排煙口が排煙上有効なものである事

こちらも排煙設備と同じ基準になりますが、ある程度煙が抜けるような構造にしなければならないという事です。

詳しくは建築物の防火避難規定の解説2016に記載がありますが、内容としては以下のようなものです。

排煙上有効な開口部の条件(抜粋)

①隣地境界線から有効25㎝以上離す事

②排煙窓が内倒しや外倒し窓の場合、回転角度に応じて算定する事

③2重サッシや内側障子がある場合は排煙操作上支障が無いものとする事

etc…

詳細は、防火避難規定の解説に詳細が書いてあるので、ぜひ確認してみてください。

平均天井高さ3mの緩和は住宅だと使いにくい

ここまで読んで、住宅で緩和を使おうと思っている人は、

イヤイヤ、さっきから何の話してるの?

私のイメージしている検討と全然違うんだけど?

となっていると思います。それもそのはず。

住宅でよく行うのは『排煙上無窓居室検討』です。

今回の緩和は『排煙設備』に対してのものなので、そもそも検討している法文が違います。

住宅などでよく、床面積の1/50以上の排煙無窓居室検討を行いますよね。あれは、『令第116条の2第1項第二号』の検討です。

そして、今回の緩和の対象になっているのは『令第128条の2』の排煙設備の検討です。

実は似ているようで別物の検討なのです。

令第116条の2第1項第二号 排煙上無窓居室の検討
令第128条の2 排煙設備の検討★今回の緩和はこっちで使える!

 

しかし、別物とは言いましたが、一切関係が無い訳ではありません。

なぜなら、令第116条の2第1項第二号(排煙上無窓居室の検討)が満たせない場合、令第128条の2(排煙設備)の設置が必要になるからです。

流れは以下になります。

令第116条の2第1項第二号(排煙上無窓居室の検討)が満たせない場合(つまり排煙無窓居室の場合)

令第128条の2(排煙設備)の設置が必要になる

排煙設備の緩和を使う事ができる

今回の紹介している排煙設備の平均高さ3m以上の緩和(告示1436号)を使う

 

こんな流れで一応、住宅などでも今回の緩和を使う事は可能なのです。

しかし、先ほど説明した『500㎡以内毎の防煙区画』や、『手動開放装置』などを設置する事が必要で、正直現実的ではありません。

特に防煙区画です。防煙区画は最低でも『50㎝以上の防煙垂壁』が必要です。そんなの、わざわざ住宅などで計画なんかしないですよね?だから、住宅などで使うのは現実的ではありません。

このあたりの説明ややこしくて難しいので、別の記事で詳しく解説しています。ぜひ確認してみてください。

 

まとめ:平均高さ3m以上の緩和は『排煙設備』の緩和である

まず、排煙設備が必要になったときの緩和なので、排煙設備を付けたく無いと考えている場合はこの緩和を使う事は考えちゃダメです。

例えば、『排煙上無窓居室(令第116条の2第1項第二号)になって排煙設備が必要になってしまった』又は『特殊建築物で床面積が500㎡超で排煙設備が必要になった』など、排煙設備が必要になった時に使う事を考える緩和です。

ぜひ以下の記事で、排煙設備が必要になる建築物について再確認して、内容を整理してみてください。

最後までありがとうございました!

 

ABOUT ME
そぞろ。
このサイトを作成している管理者。建築法規に関わる仕事をしています。難解な建築基準法をわかりやすく、面白く解説して、『実は簡単なんじゃないの?』と勘違いしてもらいたい。著書『用途と規模で逆引き!住宅設計のための建築法規』

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