建築基準法はグレーゾーンは有った方がいい理由

『建築基準法のグレーゾーン』って知ってますか?

確認申請を出したり、審査機関と打ち合わせをする方にとっては馴染みがあるかもしれませんが、他の方にとってはあまり馴染みが無いかもしれませんね。

建築基準法のグレーゾーンとは、簡単に言うと建築基準法には明文されていない内容です。

建築基準法は、当たり前ですが、法文なので全部文字で表現されるものです。しかし、その建築基準法を適用させるものは、立体の建物です。だから、法文(文字)では表現できていない部分が多くあります。だから、建築基準法は実はグレーゾーンだらけです。

さて、そんな建築基準法のグレーゾーンについて、2つの意見があります。

それは、グレーゾーンは有った方が良い!という意見と、グレーゾーンは無い方が良い!という意見です。

そこで、まずは一方的に私の意見をお伝えすると、グレーゾーンは有った方が良いです。これは、数年間、様々なグレーゾーンを考えてきた中でたどり着いた私なりの答えです。

今回は、どうしてグレーゾーンは有った方がいいのか?そんなお話をできるだけわかりやすく書いてみます。

建築基準法のグレーゾーンってどんなの?

グレーゾーンとは、建築基準法には明文されていない内容とお伝えしました。では、具体的にどんな内容なのか、一つわかりやすい具体例を出してみようと思います。

建築物の避難階以外の階においては、避難階又は地上に通ずる直通階段を居室の各部分からその1に至る歩行距離が次の表の数値以下となるように設けなければならない。(建築基準法施行令第120条より一部抜粋)

これは、避難規定の法文の一つです。避難規定とは、火災発生などの非常時に、人が安全に道路まで避難する為の規定です。

そんな人の命を守る規定なので、当然この令第120条も非常に重要な法文です。

では、法の趣旨を簡単にご説明します。あなたは、建築物の2階以上にいた時、もし火災が発生した事に気が付いたら、どこから逃げますか?ほとんどの人が階段で1階に降りてから逃げると答えるのではないでしょうか。そして、自分がいる位置より階段が近い方が、早く避難する事ができますよね。この令第120条は、居室の各部分から階段までの歩行距離の制限を定めています。要は、居室の各部分と階段は出来るだけ近付けて計画しなければなりません。建物の用途や構造によりますが、歩行距離は30m〜60m以内にする必要があります。

さて、一見単純そうなこの法文ですが、これもまた、グレーゾーンがある法文です。

どんな部分がグレーゾーンになるのか?それは、歩行距離の測り方です。具体例を見てみましょう。

それぞれ、若干違いがありますよね。①②の違いは、『法文に忠実』か『法の趣旨に照らし合わせて解釈』この違いがあります。

①は、比較的『法文に忠実』だと思います。居室の各部分、1番遠いところ、つまり部屋の端から最短距離そして通路中心で歩行距離を考えています。

それに対して、②は『法の趣旨に照らし合わせて解釈』していると思います。まず、スタートの位置を壁面から50cm離しています。どうしてでしょうか?それは、人には厚さがあるからです。部屋の端っこは物理的に行く事ができないから、50cm離しています。そして、最短距離ではなく、部屋の壁から50cmの部分で歩行距離を考えています。今回考えている室は居室なので、家具を置きますよね。家具が邪魔で、部屋の中心を通る事が出来ないかもしれません。だから、中心部分を避け、壁から50cmの部分で避難しているのです。(ちなみに、②の考え方は建築基準法及び同大阪府条例質疑応答集〔改正第6版〕を参考にしています)

説明を聞いてみると、どちらも間違っていないように感じますよね。このように、建築基準法に明文されておらず、考え方によって解釈が分かれてしまう内容をグレーゾーンと呼びます。

グレーゾーンは有った方が良いのか?無い方が良いのか?

まず、グレーゾーンが有って困る話をします。

例えば、グレーゾーンがありそうな建築計画があったとしましょう。工事を着工する為には、『確認済証』という法律に適合している事のお墨付きをもらわないといけません。(申請先は市役所が原則です)これは建築基準法のルールです。

A市に申請をしてA市が法適合している事を確認した証に『確認済証』を交付しました。ここまでは普通です。しかし、全く同じプランでB市に申請を提出した時、B市がグレーゾーン部分を指差して、これは建築基準法に適合していないとして『確認済証』を交付しませんでした。おかしな話ですよね。全く同じプラン、同じ建築基準法の規定。それでもA市とB市の法の解釈により、全く違う結論になってしまう訳ですから。だから、グレーゾーンは無い方がいい、考え方は統一してほしいとの意見を持つ方がいるのもわかります。

しかし、そんな意見を聞いても、グレーゾーンはあった方が良いと私は考えています。理由は2点あります。

まず、1点目。そもそも『グレーゾーンを統一する事はほぼ不可能』だからです。どうしてグレーゾーンなんてあると思いますか?それは、先ほど説明した通り、文字だけで表現されたからという理由もありますが、それよりも建築基準法が単純で、曖昧に書かれている法文で、いかようにも解釈できるからです。だから、グレーゾーンを無くす為にはどうすれば良いのか?それは、建築基準法をもっと細かく定めれば良いだけです。でも、それでいいんでしょうか。この記事を読んでくれている方にどれくらい建築士の試験を受けた方がいるかわかりませんが、受けた方なら現状でも建築基準法はそこそこ複雑である事を知っている方も多いのではないでしょうか。私の事務所には、建築基準法のわりと公式っぽいの解説書なるものがたくさんあるのですが、その数ザッと20冊以上です。(それでもグレーゾーンが全部網羅できているとは到底言えません)だから、建築基準法がグレーゾーンを無くす為には法令集が今の20倍くらいのボリュームなってもおかしくないという事です…(あくまで予想ですが…)そんなの、誰がまとめんだって感じです。だから、グレーゾーンを統一する事は不可能だと思います。

2点目は、『設計の自由が無くなるから』です。例えば、(出来るかどうかは置いといて)建築基準法が曖昧な内容が一切無い、完璧な法律になったとしましょう。当然ですが、完璧な法律なので、記載の内容以外は一切認められません。どんなに事前協議をしても、『法文に書いてないので絶対無理です』と言われてしまうわけです。

これは、設計の自由を奪う事になりかねません。面白い設計をしても、建築基準法に許されていない内容だったら、計画する事が出来なくなります。もし、グレーゾーンがあれば、建築基準法の趣旨目的をよく理解し、申請先に事前協議をすれば、計画する事が可能になるかもしれません。だから、グレーゾーンがあった方が自由な設計が出来ると思います。

でも、『そこをガチガチに取締るのが法律ってものじゃないのか?』と疑問に思う方もいるかもしれません。では、ここで建築基準法の目的を確認してみたいと思います。

この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。(建築基準法第1条より)

『最低の基準』とあります。つまり、ガチガチに取締りをする目的は建築基準法にはありません。国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資する事ができている建築計画であれば、建築基準法の目的は達成できるのです。最低の基準である為にも、グレーゾーンは必要だと思います。

建築基準法はグレーゾーンがあるから面白いんじゃないかな

建築基準法は、曖昧に書かれているので、いかようにも解釈できてしまう法文です。でも、そこが建築基準法の面白いところだと思います。

その面白さとは、曖昧だからこそ、色んな可能性があるという事です。

一見建築基準法に適合していないプランでも、法の趣旨に合致するような主張が出来れば、適合と判断される可能性もあります。これは、建築基準法が曖昧だからこそ、グレーゾーンがあるからこそ、生まれる可能性です。(もちろん!脱法行為みたいな事はダメですけど!ちゃんと法の趣旨を守るのは大事!)

そんな面白さがある建築基準法のグレーゾーンは、やっぱりあったほうが良い!と私は思います。

最後までありがとうございました!!